映画『オデュッセイア』(クリストファー・ノーラン監督)を観てきました。
評判にたがわず、素晴らしいというか、「もの凄い」映画で度肝を抜かれました!
アカデミー賞の作品賞や監督賞は確定で、残る論点は部門賞をいったい何部門取るのかくらいだろうといったレベルの傑作だと思いました。(これまでの最多受賞記録は、『ベン・ハー』(1959年)、『タイタニック』(1997年)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年)の11部門)。
ただ、日本公開は先週金曜日(2026年9月11日)だったものの、先行公開もされていたこともあって、映画の感想や分析などは既にインターネットやSNS、YouTubeなどに溢れかえっていて、私などが何か書いたところで、それらの中に埋没してしまうだけと思われます。
そこでこの記事では、以下の2点に絞って書かせていただくことにしました。
▶ 私のようにそこまで映画に詳しいわけでもないごく普通の映画ファンに向けた「観る前にこれだけは知っておくべき・これだけは気を付けるべきポイント」(ネタバレなし)
▶ 観終わった人と語りたい「ノーラン監督の映像・音楽・構成へのこだわり」(ネタバレあり)
映画を観る前に最低限知っておいた方がいいこと(ネタバレなし)
さて、本作はクリストファー・ノーラン監督の作品です。
ノーラン監督と言えば、「作品がとにかく難解」ということで有名ですよね。
私自身も、過去に『TENET テネット』(2020年)や『オッペンハイマー』(2023年)を予習なしで観て、全く理解できなかったという手痛い経験をしています。
そこで、本作品については、かなり身構えて入念に予習をしてから鑑賞しました。
結果としては「そこまで入念に予習しなくても大丈夫だった」のですが、それでもこれだけは知っておいた方がいいというポイントがいくつかありますので、ご紹介します。
1. 登場人物については、主要な「4人」だけ押さえれば十分!
映画.comによると、本作のあらすじは以下の通りです。
西洋文学の原点とされる古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を映画化した超大作。トロイア戦争後の英雄オデュッセウスによる10年におよぶ帰還の旅を描く。
トロイア戦争を終えたイタケの王オデュッセウスは、妻と息子が待つ故郷への帰還を目指す。しかし神々の怒りを買った彼の前には、一つ目の巨人や魔女、荒れ狂う海の怪物といった幾多の試練が立ちはだかる。一方、王の不在が続く故郷では、王妃ペネロペに求婚者アンティノオスの影が忍び寄り、まだ見ぬ父を思う息子テレマコスも窮地に追い込まれていた。愛する家族のもとへ帰り着くため、オデュッセウスは過酷な運命に立ち向かっていく。
ということで、ストーリー自体は、ノーラン監督作品としてはかなり単純です。ですので、登場人物についても、次の「4人」さえ確実に押さえておけば問題ありません。
① (当然ながら)オデュッセウス:主人公(イタケの王)
② ペネロペ:20年間にわたり、故郷でオデュッセウスの帰還を待つ妻(王妃)
③ テレマコス:オデュッセウスの息子。父に何が起きたのかを知り、その帰還を信じる手がかりを 得るため、旅に出る
④ アンティノオス:オデュッセウス不在の宮殿に居座り、ペネロペに結婚を迫る男
2. 「クセニア」(「ゼウスの掟」)とは
古代ギリシャでは、「神が人間に姿を変え、旅人や物乞いなどとして人間社会に現れることがある」と信じられていました。そのため、見知らぬ旅人や客人が戸口に立ったら、名前や素性を尋ねる前にまず保護し、食事と休息を与えよとされていました。
これが、古代ギリシャで「クセニア」と呼ばれていた客人歓待の慣習で、「ゼウスの掟」とは、ノーラン監督が、この古代の慣習を現代の観客にも追いやすい道徳律として言語化したものです。
映画では、オデュッセウス不在の故郷の宮殿で、王妃ペネロペに求婚する男たちが100人余りも居座り、他人の財産で毎晩宴会を行うなど、傍若無人に振る舞っている様子が描かれていますが、これらを追い出すこともできないのは、「クセニア(ゼウスの掟)」の慣習に強く縛られているからなのです。
3. どういう存在か知っておいた方がいい「2人の女性(女神)」
作中には、ほとんど説明なしで登場する、重要な2人の女性(女神)がいます。
カリュプソ(女神)
映画の最初の方で、島の海岸で、少し呆けたような感じで茫然としているオデュッセウスと共に描かれている女性です。この女性は、オギュギアという島に住むカリュプソという名前の女神です。
部下も船も失って島に漂着したオデュッセウスを愛した彼女は、彼を島にとどめるため、記憶を失わせるロートス(=ハス)の実を食べさせ、実に7年間も引き止めます。
そうした下でも、やがてオデュッセウスは記憶を取り戻し、過去の戦いや冒険のシーンが、オデュッセウスの「回想」を映像化したという形で描かれていきます。
アテナ(女神)
オデュッセウスの隣に急に現れたり消えたりする黒人系の女性です(『スパイダーマン』シリーズや『デューン 砂の惑星』などに出演したゼンデイヤが演じています)。
こちらは、アテナという知恵と戦いを司る女神(最高神ゼウスの娘)で、オデュッセウスを見守る存在です(ただし、映画の中では、特に助けたり導いたりしてくれるわけではありません)。神であるため、自由に姿を現したり消えたりできるというわけです。
この2人の女性(女神)は、映画ではほとんど説明なしに描かれています。上記のような存在であることを予備知識として知っておけば、「この女性は何者だろう」などと混乱しなくて済むと思います。
4. 個人的には、主要なエピソードとそれらの時系列を知った上で観ることをお勧め
上記の1~3さえ押さえておけば、話についていけなくなるということはないと思います。
その上で、更にどの程度予習しておくかということですが、「予備知識なしでスリルやワクワク感を楽しみたい派」と「流れを把握した上で観たい派」に分かれるかと思います。
このあたりになると好みの問題となりますが、個人的には、後者のエピソードの流れを把握しておく方を是非お勧めします。
というのは、最初の方で書いた通り、本作はノーラン監督作品としては非常に単純で分かりやすいとは思いますが、(これはノーラン監督がというより、原作そのものがそうなのですが、)物語は、オデュッセウスの話と、故郷の宮殿の王妃や王子の話と二本立てで進みますし、オデュッセウスの話も、本人の回想で過去に遡ったりするので、主要なエピソードを時系列で押さえておいて、この時点のあのエピソードだなというような形で観た方が存分に楽しめると思うからです(ノーラン監督の撮影技術が凄まじいので、エピソードを知っていても、ワクワク感やハラハラ感が失われることは全くないと思います)。
また、説明がほとんどないシーンが多いので、例えば、美しい歌声で船乗りを惑わす海の怪物セイレーンのシーンなどでは、全く何も知らないと、「なぜ皆は蜜蝋で耳栓をして、オデッュセウスだけマストに縛り付けられているのだろう(???)」てなことにもなりかねません。
映画を観るに際して注意すべきこと
1. IMAX対応劇場が近くにある方は、絶対にIMAXで鑑賞して下さい!
IMAXは独自の「超高画質・大画面・高音質」を提供する上映システムですが、本作は「全編がIMAXフィルムカメラで撮影された史上初の長編劇映画」とのことです。600~900円の追加料金はかかりますが、この程度の金額を惜しんでIMAXで観ないのは、逆に全くもってもったいない話だと思います。
ちなみに、私はTOHOシネマズ日比谷で鑑賞しましたが、後から調べたところでは、「グランドシネマサンシャイン池袋」や「109シネマズ大阪エキスポシティ」に行ける環境の方は、そちらが別格でお勧めだそうです。例えば、池袋であれば、高さ18.9m(ビル6階分相当)×幅25.8mという超巨大スクリーンを備えており、視界の隅々までノーランの映像で満たされる体験ができるのだとか。
なお、座席の位置については、ノーラン監督自身がアドバイスを出しており、「中央列よりやや後方、左右はど真ん中」が良いそうです。前すぎる席では縦横に広がる画面を視線が追い切れず、テニス観戦のように首を振るはめになる、というのが理由とのこと。
2. 【地味に超重要】トイレ対策は万全に!
私のように、加齢によりトイレが近くなってきた身には切実な問題です。
何せ、本編だけで172分という長尺映画で、予告編を含めると優に3時間を超えてしまいます。私が鑑賞した際も、上映途中にトイレに向かうとおぼしき人や、エンドロールが始まった瞬間に席を立つ人が大勢いました。
ということで、上映前に必ずトイレを済ませるのは当然のこととして、コーヒーやお茶など利尿作用のある飲み物は控えるのが鉄則です。
それにしても、最近は『アバター』『オッペンハイマー』『国宝』など、3時間前後の長尺映画が本当に多くなりましたね。昔の大作映画(『風と共に去りぬ』『ベン・ハー』『アラビアのロレンス』など)には、「インターミッション(中休憩)」という有難いものがありましたが、現代の監督からすると「インターミッションなど入れたら、せっかく高まった観客の没入感が途切れてしまう」ということなのでしょうね。
(おまけのコラム2題)
「過剰なポリコレ配慮」?
最近、『リトル・マーメイド』のアリエル役、『ピーターパン&ウェンディ』のティンカー・ベル役、『スパイダーマン』シリーズのヒロイン役などに、黒人系の女優が相次いで起用され、エンターテイメント業界において、過剰な「ポリコレ(ポリティカル・コネクトネス/政治的正しさ)」や「ブラック・ウォッシング」が議論になっていることをご存じの方も多いと思います。
本作においても、オデュッセイアを見守る存在である女神アテナ役をゼンデイヤ(アフリカ系)、ギリシャ神話で世界一の美女とされ、トロイア戦争のきっかけとなったヘレネ役をルピタ・ニョンゴ(ケニア系)が演じており、イーロン・マスクなどの著名人がSNS上で不満を表明するなど、議論が起きているそうです。
『スパイダーマン』シリーズのあの2人が極秘結婚していた!
映画鑑賞後に購入したパンフレットを読んでびっくりしたのですが、『スパイダーマン』シリーズで共演を重ねてきたトム・ホランド(本作では王子テレマコス役)とゼンデイヤ(本作では女神アテナ役)が、今年はじめ(3月以前)に極秘結婚していたそうです!
皆さんご存じでしたか?
三浦友和と山口百恵のようなビッグカップル誕生ですね(いくら何でも、例えが古過ぎましたね)。
観る前にお伝えしておきたい情報は以上です。
それでは(可能な方は絶対にIMAXで!)本作を存分に楽しんできて下さい!
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以下は、既に映画をご覧になった方のみお読みください
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ノーラン監督の「こだわり」の凄さ
映画鑑賞後、いろいろ調べて知ったノーラン監督の「こだわり」の凄さについて、簡単にまとめてみました。
1. 「撮影」へのこだわりの凄さ
ノーラン監督の「撮影」へのこだわりは有名で、本作でもCGは極力使わず、以下のように実写特撮にこだわっています。
▶洞窟に潜む一つ目の巨人:高さ60フィート(約18m)もある巨大な人形を作成し、ワイヤーで操作して実際に俳優と対峙させた。
▶銀の甲冑の巨人:巨人側には身長が最高210cmの俳優を用いる一方で、オデュッセウスのスタントには身長137cmの女性を起用し、これに強制遠近法の手法を組み合わせることにより、巨人と人間というスケール感を再現。
▶冥界(死後の世界)の死者たち:地面から這い出る死者のシーンは、シュノーケルを装着した俳優を実際に土の中に埋めて撮影。
▶戦争の舞台となったトロイアの街並み:2.5エーカー(約10,000㎡、100m×100mに相当)の敷地に60以上の建造物を実際に建設して撮影。
▶トロイの木馬:高さ約10.7m、重量約3.6トンもの巨大な木馬を、木材・鋼材・FRP(ガラス繊維強化プラスチック)で実際に製作。
▶航海シーン:ノルウェーの職人が作った約35mの木造船を実際に外洋へ出し、キャストは激しい波や海水を浴びながら演技。

これほどのこだわりゆえ、製作費は推定2億5,000万ドル(約380億~390億円)にも達していると言われています。
もっとも、世界累計の興行収入は既に13億5,200万ドル(約2,150億円)に達しており、とっくにペイしているのが凄いところです。
2. 「音楽」へのこだわりの凄さ
エンドロールの音楽を聞いて、「パンチに欠ける」「どこか素朴で物足りない」というような感じを受けませんでしたか。
実はこれは、ノーラン監督が音楽にも大いにこだわり、古代ギリシャの音律(旋律の仕組み)や独特の楽器編成を忠実に意識・再現した結果だからだそうです。
現代のハリウッド映画(例えば「スター・ウォーズ」の冒頭)では、「ズドーンと重低音が響き、弦楽器が大音量で盛り上げる」ようなオーケストラによる派手な演奏が一般的ですが、これとは全く異なるアプローチが取られています。
和音の重なり(ハーモニー)がない単音主体の旋律を用い、楽器も復元した古代の楽器(アウロス(二重管)やリラ(竪琴))を主役とすることにより、あえて派手な音を削ぎ落とし、オデュッセウスがさまよった荒涼とした古代世界の空気感などを際立たせているのだそうです。
3. 「現代的な解釈」へのこだわりの凄さ
映画の終盤で、オデュッセウスがトロイア陥落時の凄惨な光景(首を切り落とされる女性など)や破壊を想起し、「自分が『トロイの木馬』作戦を発案したせいでこのような惨劇を引き起こした」と苦悩する場面があります。
このような描写は、映画『オッペンハイマー』(2023年)とも響きあう、「現代的な味付け」と言えると思います。
また、本作で描かれるオデュッセイアの姿を「帰還兵のPTSD」として捉えることも可能ではないかと思われます。女神カリュプソの島で記憶を失わせるハスの実を食べる場面も、戦争のトラウマから現実逃避するため麻薬などに依存するようになってしまう帰還兵のメタファーのようにも感じられます。
このようなノーラン監督らしいとも言える「現代的な味付け」については、多分評価が分かれるところではないかと思います。私のような素人には、ちょっと手に負えない範疇の問題ですね。

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